第5章 金属と非金属 練習問題

(1)アルカリ金属の融点は、周期表の下方に進むにしたがって低くなる。その理由を述べよ。

 原子の融点は分子量と結合力によって決まる。周期表の下方に進むにしたがって、原子の分子量は大きくなるが、同時に最外殻は原子核から遠くなるため有効核電荷は小さくなり、結合力は弱くなる。そうすると融点は低くなる。

 

(2)塩化ナトリウム(NaCl)などのイオン結晶は、固体状態では電気を流さないが、水溶液や高温の溶融状態では電気を流す。その理由を述べよ。

 固体状態のイオン結晶はそれぞれのイオンが動き回れないために電気を流さないが、水溶液中や溶融状態ではNa+やCl+のイオンが動き回れるため電気を流す。

 

(3)クロムとマンガンがそれぞれ最高6+と7+の価数を持ったイオンになることを、電子配置から説明せよ。

 それぞれ4s軌道と3d軌道の価電子をすべて失えばイオンとなるため。

 

(4)次の化合物の電子間の結合は、金属結合、共有結合、イオン結合のいずれかを答えよ。

 (a)青銅(CuとSnの合金)

  →金属元素同士の結合ため金属結合である。

 (b)塩化ルビジウム(RbCl)の結晶

  →Rb+の電子をCl-に供与することで作られるためイオン結合である。

 (c)四塩化炭素(CCl4

  →CとClの電子を共有することで閉殻構造を作るため共有結合である。

 (d)固体のカルシウムカーバイド(CaC2

  →CとCが共有結合し、Ca2+とC2-がイオン結合している。

 

(5)[Cu(CN)4]3-ではCu+に4つのCN-が配位しており、[Co(NH3)6]3+ではCo3+に6つのNH3が配位している。この配位の数4と6がどのように決まっているのかを考えよ。

 N殻(4s軌道、3d軌道、4p軌道)には計18個の電子を収容可能である。Cu+は10個の電子を持つため、配位子CN-から孤立電子対を4つ(電子を8個)供与されることで閉殻構造を形成する。Co3+は6個の価電子を持つため、配位子NH3から孤立電子対を6つ(電子を12個)供与されることで閉殻構造を形成する。

第5章 金属と非金属

《目標&ポイント》元素を単体の示す性質や原子の電子構造にしたがってさまざまに分類する。特に、金属元素の単体の性質や遷移元素についての理解を深める、また、無機化合物の代表的な成り立ちを理解する。

 

 元素は、金属元素と非金属元素の2つに分類される。金属とは「延性」や「展性」に富み、電気および熱の「良導体」であり、特有の「金属光沢」を持つ物質である。単体が金属の性質を示す元素を「金属元素」と呼び、そうでない元素を「非金属元素」と呼ぶ。また両者の境目の性質を示す元素を「半金属元素」と呼び区別することもある。

 ・延性・・・細長く伸ばすことができる性質

 ・展性・・・薄く広い箔にすることができる性質

 周期表を見ると、元素は2013年現在118種類が知られているが、その中に非金属元素は20種類しかないことがわかる。水素を別にすると、非金属元素周期表の右端2列および右上に集まっている。

 非金属元素がこのような位置に集まっているのには理由がある。1つは、同じ周期で比較すると、周期表で右側にある原子ほど有効核電荷が大きくなり、価電子が強く原子核に引きつけられているため。もう1つは、周期表の上のほうにある原子ほど内側の殻が最外殻となるので、価電子が強く原子核に引きつけられているためである。

 価電子がしっかりと個別の原子核に引きつけられていると非金属元素になり、そうでないと金属元素になる。引きつけられる力が弱いと、原子が多数集まってできている固体中では価電子が容易に原子核から離れ、特定の原子に属することなく固体中を動きまわる。そのように動きまわる電子を「自由電子」と呼ぶ。

 金属結晶の性質は、価電子を失った金属の「カチオン」が多数の自由電子の海の中に浮かんでいるような描像でとらえると理解しやすい。金属がカチオンだけでも電気的な反発力で拡散せず固体でいられるのは、特定のカチオンに属さない自由電子が全体を取りまとめているからである。このように、自由電子が固体中の全ての金属原子に共有されてできる結合を「金属結合」という。

 ・カチオン・・・正の電荷を持ったイオン(対義語:アニオン)

 同じ金属元素とはいってもその性質は極めて多様である。融点と密度について述べるなら、融点は常温で液体のHgから3000℃でも溶けないWまで、密度は水に浮いてしまう軽金属のLiからその40倍の密度を持つ重金属のOsまである。硬さも同様である。

 ・軽金属・・・密度4g/c㎥未満の金属。AlやMgなど。

 ・重金属・・・密度4g/c㎥以上の金属。Cr、Mn、Fe、Pbなど。

 金属元素の融点、密度、硬さの変化は、金属原子の大きさと金属原子1つあたりの自由電子の数によりおおよそ理解することができる。金属原子1つあたりの自由電子の数が多くなるほど金属原子間の結合力が大きくなり、融点、密度、硬さは高くなる。

 

 元素は「典型元素」と「遷移元素」に分類される。典型元素には金属元素と非金属元素の両者が含まれるが、遷移元素(遷移金属)は全て金属元素である。遷移元素周期表上で3族から11族までの元素を指し、それ以外の元素を典型元素と呼ぶ。

 遷移元素は「不完全に満たされたd軌道を持つ原子、あるいはそのようなカチオンを生じる元素」と定義される。すなわち、原子番号が増えるにしたがってd軌道(第4周期以降)あるいはf軌道(第6周期以降)の電子が増えていく過程の元素である。

 第4周期以降の元素は複雑な順番で電子が増えていく。これは原子核電荷の変化、各軌道に配置された電子の遮蔽効果、電子間の反発の効果により、軌道のエネルギーの順番が入れ替わるためである。具体的には、1s(第1周期)-2s-2p(第2周期)-3s-3p(第3周期)-4s-3d-4p(第4周期)-5s-4d-5p(第5周期)-6s-4f-5d-6p(第6周期)-7s-5f-6d…の順番で電子が増える。

 また、Sc以降の原子では各軌道のエネルギーが4s>3d>3p>3s>…となるため、21から30までの原子(第4周期遷移元素)をイオン化すると電子は4s軌道から弾かれる。言い換えると、第4周期遷移元素の第一イオン化エネルギーはほぼ一定の値を取る。これは原子核電荷が大きくなっても、内殻の3d軌道の電子が増えて遮蔽効果が大きくなるために、4s軌道の電子が原子核から受ける力が大きく変化しないためである。そのためもあってか、遷移元素はお互いに似通った性質を持つ。

 

 非金属元素では、各原子が価電子を固有するので、価電子を多数の原子核で共有する金属元素とは異なり、周期表の縦に並んだ価電子の数が共通な元素ごとに特徴的な性質を持つ傾向が強い。

 ・希ガス元素・・・周期表の右端の列の元素。最外殻に閉殻構造を持つため化合物を作りにくく、常温・常圧では原子のまま気体として存在することが多い。

 ・ハロゲン元素・・・周期表の右から2列目の元素。1価のアニオンになりやすく、金属と塩を作り、水素と化合物を作ると酸になる。単体では二原子分子となる。

 金属元素と非金属元素のの組み合わせには、金属同士、非金属同士、金属と非金属の3通りが考えられる。金属同士の化合物、もしくは金属と非金属による化合物のうち金属の性質をもつものを「合金」と呼ぶ。鉄に炭素を加えた「鋼」などがある。

 金属元素と非金属元素の組み合わせでは、電子を放出しやすい金属原子がカチオンに、取り込みやすい非金属元素がアニオンとなる。このような化合物が気相で存在すると、大きな双極性モーメントを持つ分子となる。一方、固体で存在する場合には規則正しく並んだ結晶(イオン結晶)となり、電荷は固定されて移動することがない。そのためにイオン結晶は電気伝導性や延展性を示さない。

 

 遷移金属をはじめとする金属のイオンは「錯イオン」と呼ばれる複雑な構造を持つイオンを作ることがある。例えば、Cu2+(2価の銅イオン)はNH3(アンモニア分子)4つと結合して[Cu(NH3)4]2+(テトラアンミン銅(Ⅱ))という錯イオンを作る。またFe3+(3価の鉄イオン)はCN-(シアノイオン)6つの結合して[Fe(CN)6]4-(ヘキサシアノ鉄(Ⅲ))という錯イオンを作る。錯イオンは、構成分子やイオンに解離することなく一つのイオンとして振る舞うことが多い。

 金属イオンに結合する分子やイオンを「配位子」と呼ぶ。金属イオンと配位子の結合は「配位結合」と呼ばれる。例えばBH3とNH3が結合してH3B-NH3という化合物を作る場合、まずBH3のBはHとの共有結合により最外殻に6個の電子を持ち、閉殻構造を完成させるのにあと2個電子が必要な状態である。一方、NH3のNはHとの共有結合により閉殻構造を完成させているが、Nには結合に関わっていない価電子が1組2個残っている。このように結合に関わらない価電子の組を「孤立電子対」と呼ぶ。H3B-NH3のB-N結合は、Nの孤立電子対がBの電子が不足している軌道に入ることで形成される。

 通常の共有結合では結合に関わる原子が1個ずつ電子を出し合って結合するのに対し、上記の結合ではNが一方的に電子を供与して結合が成立している。このように、一方の原子のみが電子対を供与して成立する結合を配位結合と呼ぶ。

 遷移金属のイオンは最外殻のs軌道やその内殻のd軌道の多くが空軌道となっているために、孤立電子対を持つNH3、H2O、ハロゲンのアニオン、CN-などと配位結合を形成することが多い。配位子と結合することにより金属の電子の状態は微妙に変化するため、錯イオンは様々な色を呈することがある。

第4章 分子の成り立ち 練習問題

(1)フッ素(F2)、二酸化炭素(CO2)、アンモニア(NH4)の電子配置を記せ。

 図略。

 

(2)Be2は安定に存在でないことが知られている。分子軌道への電子の配置を描き、その理由を検討せよ。

 Beの価電子は2sに2個である。仮にBe2分子を形成する場合、電子は結合性軌道のσ軌道に2個、反結合性軌道のσ*軌道に2個となるため、互いの力が均衡して安定しない。

 

(3)酸素分子(O2)から電子を1個取り除いた酸素分子イオン(O2+)の結合は、酸素分子と比べて強いか弱いかを答えよ。

 酸素分子イオン(O2+)の結合は、酸素分子(O2)に比べて強い。O2+の分子軌道はσp軌道に2個、π軌道に4個の電子を持つのに対し、O2の分子軌道はσp軌道に2個、π軌道に4個、π*軌道に2個の電子を持っており、電子2個分の反結合力が働いている分、結合が弱い。

 

(4)次の二原子分子では、それぞれどちらの原子が負の電荷を帯びているかを答えよ。

 (a)LiH・・・水素化リチウムの電気陰性度はLiが1.0、Hが2.1だから、δ+LiHδ-

 (b)LiF・・・フッ化リチウムの電気陰性度はLiが1.0、Fが4.0だから、δ+LiFδ-

 (c)HF・・・フッ化水素の電気陰性度はHが2.1、Fが4.0だから、δ+HFδ-

 

(5)Li2とF2の結合はいずれも単結合であり、それぞれの結合エネルギーは、108kJ/molおよび154.6kJ/molである。F2の結合のほうが強い理由を考察せよ。

 LiよりFの方が有効核電荷および電子親和力が大きいため。Liの有効核電荷は1.26、電子親和力は60kJ mol^-1で、Fの有効核電荷は2.26、電子親和力は328kJ mol^-1である。

第4章 分子の成り立ち

 本章では、原子と原子が結合をつくる原理を理解する。閉殻構造の完成による結合形成の考え方と、分子軌道への電子収容に伴うエネルギー低下による結合形成の考え方を学ぶ。σ結合とπ結合の定義とそれらの違いや、異なる原子間の結合における結合のイオン性についても学ぶ。

 

 希ガス原子は最外殻が閉殻構造を作るため電子を失ったり取り込んだりしにくい。そのために、他の原子や分子と反応や結合をすることが殆どなく、単独で存在する。この「閉殻構造の完成により安定」という指針を分子にまで拡張すると、多くの分子の結合を理解できる。

 窒素や酸素はそれぞれの原子が持つ電子を共有することで閉殻構造を完成させ、安定な分子となる。原子が閉殻構造を目指して電子を共有することで成り立つ結合を「共有結合」という。水やメタンなど多原子分子についても同様の説明ができる。電子の共有は2個単位で成立し、2個の電子を共有すれば単結合、4個なら二重結合、6個なら三重結合である。

 しかしながら、この考え方だけでは全ての分子の結合を説明することができない。閉殻構造を完成させていない、水素分子イオン(H2+)やリチウム分子(Li2)がその例である。

 H2+はH+H+→H2+という過程を経て生成される。陽子と陽子は反発し合うが、電子と陽子は引き合い、その力は後者が前者に勝る。H+はHの原子核と反発し合い、電子とは引き合う。この場合も引力が斥力に勝るため、ばらばらでいるよりH2+のほうが安定化する。

 一般的にはこのように、2つの原子やイオンが近づいた時に、ばらばらでいるよりもエネルギーが下がり安定化することを「結合ができた」という。

 

 原子が単独で存在するときの電子は、K殻、L殻、M殻などの殻や、s軌道、p軌道、d軌道などの軌道に属している。しかし、分子中の電子は複数の原子から引力を受け運動するのだから、原子中にあった時とは異なる「分子軌道」と呼ばれる軌道で運動する。

 分子軌道は原子の軌道から作られる。H2+とH2を例に挙げるなら、2つの水素原子の1s軌道から、エネルギーの異なる2つの分子軌道が作られる。一つは1s軌道よりエネルギーの低い結合性軌道(σ軌道)で、もう一つは1s軌道よりエネルギーの高い反結合性軌道(σ*軌道)である。これらの軌道も、1s軌道や2p軌道と同様に電子を2個まで収容できる。

 H2+とH2はそれぞれ1個あるいは2個の電子を持ち、それらはσ軌道に入る。2つの原子はばらばらに存在している場合に比べて、エネルギーが低く安定化している。このように、分子軌道を用いると、閉殻構造を完成させない結合の成立を矛盾なく説明することが

 この考え方を拡張すると、H2-イオンはσ軌道の2個の電子のほかに、σ*軌道に1個の電子が入るためにH2よりも結合が弱い。He2は合計4個の電子がσ軌道とσ*軌道の双方を埋めるために成立し得ない。2s軌道同士の結合によりLi2が存在し得ることなどが説明できる。

 

 分子軌道は原子軌道を重ね合わせた形をしている。2つのs軌道が相互作用により分子軌道を作る場合、その軌道は原子核同士を結んだ一本の結合軸について対称な軌道となる。そのような対称性を持った分子軌道による結合を「σ結合」と呼ぶ。σ結合は、s軌道s軌道、p軌道とp軌道、p軌道とs軌道でそれぞれ単結合する場合に形成される。

 ただし、p軌道同士が結合する場合には、結合軸に線対称なσ結合だけでなく、2つのp軌道が平行に並ぶ分子軌道(π軌道)による「π結合」を形成することがある。π結合が原子核を繋ぎ止める力はσ結合に比べて弱いため、π軌道の電子は分子外からの影響を受けやすい。

 酸素分子の結合を例に挙げよう。酸素原子は2s軌道に2個、3つの2p軌道に4個の電子を持つ。2s軌道同士の結合では、結合性のσs軌道と反結合性のσ*s軌道に合計4個の電子が収容され、満席になる。エネルギー的には安定化と不安定化が打ち消し合うため、これらの電子は酸素分子の生成には寄与しない。

 一方、2p軌道にはそれぞれの酸素原子に3個ずつ電子があるため、合計6つの分子軌道ができる。エネルギーの低い方から、σp軌道1つ、π軌道2つ、π*軌道2つ、σ*p軌道0の6つである。2p軌道の電子を見ると、結合性軌道に6個、反結合性軌道に2個入っているため、差し引き4個分で結合が成立している。結合性軌道の電子が2個の場合に単結合が成立するとうに、4個の電子により結合が成立している酸素分子の結合は、二重結合である。

 

 ここまで等核二原子分子の結合について述べてきたが、一酸化炭素(CO)のような異核二原子分子の結合についても分子軌道で説明することができる。COは、炭素が2個、酸素が4個の電子を出し、π軌道に4個、σp軌道に2個の電子が収容されることで結合している。その際、反結合性軌道には電子が収容されていないため、COは三重結合であると言える。

 等核二原子分子の結合では、結合にかかわる電子は原子核から同じように引きつけられているため、電子は両原子核から等距離の位置に存在すると考えられる。一方、COの場合には、周期表上でより右側に位置している酸素の原子核の方が電子を引きつける力が強い。したがって、結合にかかわる電子は酸素側に偏って存在する。その結果、酸素が若干の負の電荷を、炭素が若干の正の電荷を帯びる。どちらの原子に偏るかは、「電気陰性度」の値から知ることができる。大きな値を持つ原子ほど強く電子を引きつける。

 電子の偏りが起き、電子共有に加えて静電気的な引力が働くようになった結合を「イオン性を持った結合」という。この結合は、電子が完全に一方の原子に移動してしまうわけではなく、若干の電気的な偏りを持つに過ぎない。その際「多少電荷を帯びた」という意味の「δ」を付し、δ+COδ-という書き方をする。このように正負の電荷が分離した電気的偏りは「電気双極モーメント」と呼ばれ、分子と電場との相互作用や分子間の相互作用に重要な役割を果たす。

第3章 原子の構造と周期律 練習問題

(1)金の原子核を大きさ1cmの球で表した金箔の模型を考える。隣の原子核はどれくらい離れた位置にあるかを計算せよ。

 ラザフォードの実験によると、金の原子核の大きさは10^-15m、金箔中の金の原子核の間隔は2×10^-10mである。1cmの球の大きさは、金の原子核の大きさの10^13倍である。この場合、金箔中の金の原子核の間隔は、2×10^-10×10^13=2kmとなる。

 

(2)周期表で水素は左端の列の最上段に書くのがふつうであるが、右から2列目のハロゲンの最上段に書いてもよいという考え方がある。その妥当性を説明せよ。

 通常、水素は一価の陽イオンになりやすいため左端の列の最上段に書くが、電子を1個取り込むと閉殻構造になる点でハロゲン元素と似た性質を持つため。

 

(3)F-とNeの電子配置は同じである。電子を1つ取り除くのに必要なエネルギーはどちらが大きいか。理由を付して答えよ。

 電子を1つ取り除くのに必要なエネルギー、つまり第一イオン化エネルギーが大きいのはNeである。F-とNeの電子配置は同じであるが、Neの方が陽子が1個多いために電子の感じる有効核電荷が大きく、第一イオン化エネルギーが大きい。

 

(4)Mg(マグネシウム)とCl(塩素)は、それぞれ何価のイオンになりやすいかを答えよ。またそのイオンの電子配置を、次のOの電子配置の表記にならって答えよ。

 例.O:(1s)*2 (2s)*2 (2p)*4 

この表記は、1s、2s、2pの各軌道にそれぞれ2個、2個、4個の電子が存在することを意味する。

 Mgは原子番号12の第2族元素であるため、二価の陽イオンになりやすい。

  Mg^2+:(1s)*2 (2s)*2 (2p)*6

 Clは原子番号17の第17族元素であるため、一価の陰イオンになりやすい。

   Cl^-:(1s)*2 (2s)*2 (2p)*6 (3s)*2 (3p)*6

 

(5)周期表の縦に並んだ元素は、価電子の配置が同じになっている。巻頭の周期表と表3-3を参照して、Cs(セシウム)、Ge(ゲルマニウム)、Xe(キセノン)の各価電子の配置を答えよ。

 Csは原子番号55の第6周期第1族元素 Cs:(6s)*1

 Geは原子番号32の第4周期第14族元素 Ge:(4s)*2 (4p)*2

 Xeは原子番号54の第5周期第18族元素 Xe:(5s)*2 (5p)*6

第3章 原子の構造と周期律

 物質に「負の電荷を持った非常に軽い粒子」が含まれていることは、いくつかの実験で明らかにすることができる。

 1897年、ジョゼフ・トムソンは、真空管内の電極間に電圧を掛けると陰極から陽極へ向かって「何か」が飛び出すことを発見した。「何か」は電場や磁場により飛行の向きを変えることから、波でなく粒子であることがわかった。また向きを変える方向や大きさを調べることで、「何か」の電荷が負であること、及びその質量電荷比(q/m)がわかった。電極の材質や真空管内の残留ガスの種類を変えても同じ「何か」が確認されたため、「何か」はあらゆる物質に普遍的に含まれていると考えられた。

 1909年、ロバート・ミリカンは、油滴実験により求められる「何か」の電荷量が必ずある値の整数倍になることから、「何か」には最小単位があることを見出し、その値を「電気素量」(q)と呼んだ。質量電荷比(q/m)と電気素量(q)がわかったことで「何か」の質量(m)が求められた。こうして物質には「負の電荷を持った非常に軽い粒子」、つまり「電子」が含まれていることが明らかになった。

 1911年、アーネスト・ラザフォードは、金箔にα粒子(ヘリウムの原子核)を衝突させる実験を行い、金箔を通り抜けるもの、通り抜けるが方向を変えるもの、反射されるものを観察した。大部分のα粒子は金箔を通り抜け、ごく一部のみが通り抜けたり方向を変えたりした。この結果をもとに金の原子核同士の間隔を解析してみると、その間隔はほぼ原子の直径に対応することがわかった。したがって、原子の質量の大部分を占める原子核の大きさは、原子の大きさに対して非常に小さいことがわかる。

 

 原子核は、ほぼ同じ質量数の「陽子」と「中性子」から成る。中性子電荷を持たず、陽子は電子と同じ大きさの正の電荷を持つ。陽子数は原子番号と一致し、原子の種類を決める。陽子数と電子数が一致する場合に中性の原子となり、一致しない場合にイオンとなる。陽子数が同じで中性子数が異なる原子を「同位体」という。

 原子の構造として、惑星型モデルを用いられることが多い。このモデルでは原子核が太陽に、電子が惑星に対応し、電子が原子核を中心に円軌道を描く。しかしながら、このモデルは原子核と電子の大きさおよび電子の軌道が実態とかけ離れている。実際には、電子は量子力学的な軌道を描いており、直感的には理解しがたい。

 電子の軌道(=電子配置)は内側からK殻、L殻、M…と名付けられ、それぞれの殻に収容可能な電子数の上限は2,8,18…、すなわち2×n^2個と決まっている。内側の殻が電子で埋まると、次は一つ外側の殻が電子を収容する。その原子の最も外側の殻を最外殻といい、希ガス元素など最外殻が満席の電子配置を「閉殻構造」という。

 

 閉殻構造が安定であることや原子の周期性を理解するためには、価電子が原子核から受ける静電気的な引力の大きさを検討する必要がある。

 例えばLiはK殻に2個、L殻に1個の電子を持つため、原子核電荷は+3である。しかしながら、K殻の電子-2は原子核電荷+3を打ち消すため、L殻の電子は原子核電荷が+1であると感じている。このように、内殻の電子が外殻の電子の感じる原子核からの電荷の大きさを減少させる効果を「遮蔽効果」という。また、遮蔽効果を受けた電子が感じている原子核電荷の大きさを「有効核電荷」という。

 同じ周期を右に進むにしたがって有効核電荷は大きくなるので、電子を取り除きにくく(陽イオンになりにくく)なり、電子を取り込みやすく(陰イオンになりやすく)なる。同じ殻から電子を取り除くとしても、1個目よりは2個目、2個目よりは3個目の電子のほうが取り除きにくい。この時、それぞれの原子について最も取り除きやすい電子を取り除く時に必要なエネルギーを「第一イオン化エネルギー」という。また、原子に電子を1個付け加えた時に放出されるエネルギーを「電子親和力」という。

 閉殻構造を持つ希ガス元素は、第一イオン化エネルギーが非常に大きいため陽イオンになりにくく、また電子親和力が正の値を取らないために陰イオンになれない。

 原子の性質には周期性があり、第一イオン化エネルギーの値を原子番号の順に並べて線グラフ化すると、グラフは波状になり、最外殻電子数の共通する原子が似通った第一イオン化エネルギーを持つことが確認できる。ただし、原子核から遠い殻であるほど第一イオン化エネルギーは内殻に比べ小さな値をとるようになる。

 

 ここまで、殻をひとつのグループとして扱ってきたが、実際には殻は単一の軌道でなく、更に細かないくつかの軌道から成り立っていることがわかっている。

 軌道の種類には、s軌道、p軌道、d軌道、f軌道がある。K殻にはs軌道が1個、L殻にはs軌道が1個とp軌道が3個、M殻にはs軌道が1個とp軌道が3個とd軌道が5個、と外殻に進むにつれ軌道の数は多くなる。各軌道はそれぞれ2個の電子を収容できるため、軌道の数からそれぞれの殻の収容可能な電子数を求めることができる。

 同じ殻の軌道でも、s軌道よりp軌道が、p軌道よりd軌道が、高いエネルギーを持つ。電子はできるたけエネルギーが低い軌道に入ろうとするため、原子番号が進むにしたがってs軌道、p軌道の順に電子が増えていく。しかしながら、d軌道、f軌道のエネルギーは、外側の殻のs軌道のエネルギーよりも高くなることがある。例えば、M殻d軌道の電子のエネルギーは、N殻s軌道の電子のエネルギーより高くなることがあるため、注意する必要がある。

 

 軌道のイメージを視覚的に捉えるのに役立つWebサイトを掲示しておきます。

  http://winter.group.shef.ac.uk/orbitron/

第2章 物質の成り立ち 練習問題

(1)身近な物質の中から混合物、純物質、単体を1つずつ挙げよ。またその混合物について、構成成分が何なのか、構成成分に分離するにはどのような方法を用いたらよいかを調べよ。

 輝銅鉱(Cu2S)や黄銅鉱(CuFeS2)などを含む銅鉱石(混合物)は、自溶炉工程や転炉工程、精製炉工程などの製錬工程を経て不純物を除去され、純度99%程度の高純度の酸化銅(Ⅱ)(CuO)(純物質・化合物)となる。そうして得られた酸化銅(Ⅱ)を電解精錬することで、純度99.99%以上の純銅(単体)を得ることができる。

  

(2)わずかな不純物を含むベンゼンの純度を上げるために、試料を冷却して凝固させ、凝固しない部分を除いたのちに昇温して融解する操作を繰り返す方法がある。この方法で純度が上がる理由を述べよ。

 ベンゼンの凝固点は5.5℃であるため、試料を冷却するとまずベンゼンのみが凝固し、不純物を含み凝固点降下した部分は凝固しない。凝固しなかった不純物を取り除き、昇温して融解させると、初めより純度の高いベンゼンを得られる。一度の操作だけでは完全に不純物の取り除くことはできないが、操作を繰り返すたびにベンゼンの純度は高くなる。 

 

(3)鉄の酸化物には、酸化鉄(Ⅱ)(FeO)と酸化鉄(Ⅲ)(Fe2O3)がある。これら2つの化合物について、同じ質量の鉄と化合している酸素の重量の比はどのような値になっているかを求めよ。

 酸化鉄(Ⅱ)の重量比はFe:O=1:1、酸化鉄(Ⅲ)の重量比はFe:O=2:3である。したがって、同じ質量の鉄と化合している酸素の重量比は、FeO:Fe2O3=2:3となる。

 

(4)ドルトンの原子説に基づいて水素と酸素から水蒸気が発生する反応を考えると実験結果とどのように矛盾するのかを説明せよ。

 ドルトンは原子説において「元素は同種の不変の重量を持つ原子からできていて、化合物は異種の元素の原子が簡単な整数比で結合したものである」と提唱している。当時はまだ「分子」の概念がなく、水素や酸素の元素が原子の状態のまま存在すると考えられていた。

 そのため、原子説に基づく水素と酸素から水蒸気が生まれる化学反応式は2H+O=水蒸気となり、水素:酸素:水蒸気の体積比は2:1:1となる。

 しかしながら、アボガドロは実験により「同温・同圧・同体積の気体は、その種類によらず同数の分子が含まれる」という「気体反応の法則」を確認し、分子の存在を主張した。この実験により確認された水素と酸素から水蒸気が生まれる化学反応式は2H2+O2=2H2Oとなり、その体積比は2:1:2であるため、ドルトンの原子説と矛盾してしまう。

 

(5)臭素(Br)には、原子量78.92と80.92の同位体がそれぞれ50.54%と49.64%存在する。臭素の原子量を求めよ。

 78.92×50.54%+80.92×49.46%≒79.90